平成28年10月15日(土)、第52回租税法研究会が開催されました。
第一部では、ファルクラム租税法研究会会員より、経営破たんした銀行の未公開株式の譲渡が所得税法33条《譲渡所得》1項に規定する譲渡所得の基因となる「資産」の譲渡には該当しないとされた事例―東京高裁平成27年10月14日判決―についての報告がなされました。
所得税法上の譲渡所得の基因となる資産の意義を巡る重要租税判例は少なくありませんが、同条にいう「資産」概念は、一般的に固有概念と解されています。今回は、上記事例の検討を通じて、この固有概念である「譲渡所得の基因となる資産」の意義について検討が加えられました。
本件は、破綻したA銀行の取締役兼代表執行役であったX(原告・控訴人)が、その保有していた本件銀行の株式3,100株を1株1円(合計3,100円)で譲渡し、これにより株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上損失が生じたとして、同年分の所得税の確定申告を行ったところ、所轄税務署長から、本件株式譲渡に伴う損失をかかる所得等の金額の計算の基礎に含めることはできないとして、更正処分等を受けたことから、Xが国Y(被告・被控訴人)に対しその取消しを求めた事案です。
争点は、本件株式譲渡の時点において、本件株式が株式としての経済的価値を喪失しており、所得税法33条1項の規定する譲渡所得の基因となる「資産」に該当しないものであったといえるか否かです。
研究員の発表後、酒井教授との意見交換を挟み、参加メンバーからも様々な意見・質問がなされました。本件判決に対する疑問の声などもあがり、有意義な研究会になったと思います。
また、第二部では都市計画法56条1項所定の土地買取りにおいて長期譲渡所得の特別控除の適用が否定された事例として、最高裁平成22年4月13日第三小法廷判決を取り上げ、グループディスカッションが行われました。本件事例は差戻控訴審から差戻上告審までもつれた事例でしたが、各グループからとても興味深い意見が発表され、酒井教授からの開設がなされました。